第10回 第3章 自社の数字は、どう作られているか

どこまでを自社とするか ― 集計範囲

人的資本の数字は、どこまでの会社を数えれば「自社の数字」になるのか。

前回は「誰を数えるか」を扱いました。今回は「どこまでの会社を数えるか」です。

定義と並んで、ここが決まらないと数字が動きません。そして決めるのは人事ではなく、経理・経営企画の領域に入ります。

内部統制を構築すべきデータのスコープ整理
(Allyship Japan 作成)

選択肢は、おおまかに3つ

範囲何を数えるか
単体提出会社(親会社)のみ
連結・グループ連結子会社を含むグループ全体、または主要な会社
国内のみ海外子会社を除いた範囲

有価証券報告書の法定3項目は、提出会社と、一定の要件を満たす連結子会社について記載する形になっています。一方、統合報告書やサステナビリティレポートでは、グループ全体の数字を出している会社が多くあります。

同じ会社が、媒体ごとに違う範囲の数字を出しているのは、こういう事情によります。


実際にはグループ・連結が多数派です

サステナビリティ情報について第三者保証報告書を取得している東証プライム上場86社について、社会・人的資本に関する項目で保証の対象になっていた540項目の集計範囲を読み取りました。

集計範囲項目数
グループ・連結35866.3%
単体のみ15628.9%
国内のみ91.7%
その他・記載なし173.1%

3分の2はグループ・連結の範囲で保証を受けています。 保証を受ける段階では、親会社だけの数字では足りないと判断されている、と読めます。


範囲を広げると、何が起きるか

グループに広げた瞬間、実務の難しさが変わります。

① 定義を各社に通す必要が出ます

前回の「管理職とは誰か」を、子会社にも同じ条件で適用してもらう必要があります。等級制度が違う会社に「課長相当以上」と言っても、そのままでは通りません。読み替えのルールごと決めて配ることになります。

② 期ずれが起きます

決算期が違う子会社、給与の締め日が違う会社があります。「期末時点」と言ったときに、どの日を指すのかを揃える必要があります。

③ 依頼と回収の記録が要ります

各社から集めた以上、誰にいつ何を依頼し、いつ回収したかが証跡になります。メールで集めるなら、そのメールが記録です。

④ 範囲の変更が起きます

M&Aや会社分割で、去年と今年で範囲が変わることがあります。このとき、前年数値をどう扱うかを先に決めておかないと、比較が説明できなくなります。


決めるのは人事だけではできません

連結の範囲は、経理が持っています。どの会社を連結に含めるかは会計上の判断であり、人事が独自に決められるものではありません。

一方で、「その範囲の人事データを集められるか」は人事の領域です。両方が揃わないと、範囲は確定しません。

第5回で「体制は社内で決めるほかない」と書いたのは、こういう場面を指しています。


最初に決めるべきは「財務の範囲と揃えるか」

実務として最初に決めるのは、財務諸表の連結範囲と揃えるかどうかです。

揃える場合、範囲の根拠を説明する必要がありません。経理が持っている連結範囲をそのまま使えます。

揃えない場合は、なぜ違うのかを説明できる必要があります。「人事データが取れる会社だけ」という理由は、説明としては弱くなります。取れないなら取れるようにする、という話になるためです。


まとめ

  • 集計範囲の選択肢は、単体/連結・グループ/国内のみの3つです。
  • 86社の社会・人的資本の保証対象540項目では、グループ・連結が66.3%で多数派、単体のみは28.9%でした。
  • 範囲を広げると、定義を各社に通す・期ずれを揃える・依頼と回収を記録する・範囲変更時の扱いを決めるという作業が加わります。
  • 連結の範囲は経理が持っており、人事だけでは決められません。
  • 最初に決めるのは「財務諸表の連結範囲と揃えるかどうか」です。揃えないなら、違う理由を説明できる必要があります。

出所・注記

  • 集計範囲の内訳は、サステナビリティ情報について第三者保証報告書を取得している東証プライム上場企業86社を対象に、社会・人的資本に関する項目で保証の対象とされていた540項目について、報告書に記載された集計範囲を1項目ずつ読み取って集計しました(2026年9月時点)。
  • 報告書上の表記は「単体」「連結」「グループ全体」「部分グループ」「子会社合計」など多様なため、グループ・連結/単体のみ/国内のみ/その他・記載なしの4つに束ねています。束ねる前の表記をそのまま数えると最頻値は「単体」になりますが、グループ・連結を指す表記が複数に分かれているためであり、合計するとグループ・連結が多数派です。
  • 「社会・人的資本に関する項目」は、報告書上のカテゴリがダイバーシティ・労働安全衛生・人材育成・賃金・育児等に該当するもの、または法定3項目に該当するものとしています。

中山 航(なかやま わたる)

Allyship Japan LLC 代表社員/米国公認会計士(ワシントン州)

大手監査法人で8年間、金融機関の金融商品取引法監査・内部統制監査に従事。 事業会社で人的資本の法定開示について、内部統制の構築から開示実務までを担当。 厚生労働省 共育プロジェクトの人的資本経営セミナーに登壇。

外部からのチェックを受けることが初めての人事・サステナビリティ推進担当の方に向けた 入門シリーズ(全20回)の第10回です。 目次を見る →

自社の現在地を確かめる

開示している人的資本指標について、その作り方が説明できる状態にあるかを、 財務報告の内部統制と同じ枠組みで評価し、そこから先の工程表をお出しします。

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