第14回 第4章 他社はどこまでやっているか

人的資本をどこまで保証の対象に入れているか

保証を受けている会社は、人的資本のどこまでを対象に入れているのか。

第1回で、保証報告書を出している86社のうち83社(96.5%)が社会・人的資本の項目を1つ以上保証の対象にしている一方、法定3項目まで入れているのは58社(67.4%)であることを見ました。

今回は、この間にある差を分解します。「入れているか、いないか」の二択ではありません。

調査概要・方法
(Allyship Japan 作成)

4つの層に分かれます

86社を、法定3項目(女性管理職比率・男性育児休業取得率・男女の賃金の差異)をどこまで保証の対象にしているかで分けると、次のようになりました。

状態社数
A法定3項目をすべて保証の対象にしている16社18.6%
B法定3項目のうち1〜2個を対象にしている42社48.8%
C社会・人的資本は対象にしているが、法定3項目はゼロ25社29.1%
D社会・人的資本をまったく対象にしていない3社3.5%

合計86社です。


いちばん多いのは「一部だけ」

最も多いのは B の42社(48.8%) です。保証を受けてはいるが、法定3項目のうち1つか2つしか対象に入れていない。半数近くがこの状態にあります。

これは中途半端という話ではありません。対象を絞ることは、保証の実務では普通の選択です。第6回で見たとおり、対象を一部に限る場合はその理由が適切であることが求められますが、絞ること自体は否定されていません。

ただし、絞った理由が「定義が固まっていないから」であれば、それは先送りです。


「社会は入れているが、法定3項目はゼロ」が25社

注目したいのは C の25社(29.1%) です。

労働安全衛生や研修時間といった社会の指標は保証の対象に入れている。つまり、保証のプロセス自体は回っている。それなのに、法定3項目はひとつも入っていない。

考えられる理由はいくつかあります。

  • 環境データの保証から始めて、社会の指標は労働安全衛生から広げた
  • 法定3項目は有価証券報告書で開示しており、別建てで扱っている
  • 定義や集計範囲が固まっておらず、対象に入れにくい

どれであっても、次に対象へ入れる候補は法定3項目になります。 保証の進め方は知っていて、人的資本の中核指標がまだ、という層です。


「まったく入れていない」は3社しかない

D は3社(3.5%) です。

第1回で「保証を受けている会社のほとんどは、すでに人的資本の何かを対象に含めている」と書いたのは、この意味です。保証を取得した会社が、社会・人的資本をまったく触れずに済ませている例は、ほとんどありません。

環境(温室効果ガス排出量など)から始めても、社会の指標に広がっていく。それが実際の流れです。


この分布から読めること

3点あります。

① 人的資本が保証の対象になるのは、例外ではなく標準になりつつある。96.5%が何かを入れています。「うちはまだ環境だけ」という状態は、多数派ではありません。

② ただし、法定3項目まで届いているのは3社に2社。最も開示の要請が強い3指標が、保証の対象からは漏れている会社が3割近くあります。

③ 差が生まれているのは「広げる段階」。入口(何かを入れる)はほぼ全社が越えています。差がついているのは、どこまで広げるかです。


まとめ

  • 86社を法定3項目の対象化の度合いで分けると、A(3項目すべて)16社/B(1〜2個)42社/C(社会は入れているが法定3項目はゼロ)25社/D(まったく入れていない)3社でした。
  • 最も多いのは B の42社(48.8%)。半数近くが「一部だけ」の状態です。
  • C の25社は、保証のプロセスは回っているのに法定3項目が入っていない層です。次に入れる候補が明確です。
  • D は3社のみ。 保証を取得して社会・人的資本にまったく触れていない例は、ほとんどありません。
  • 入口はほぼ全社が越えており、差がついているのは「どこまで広げるか」です。

出所・注記

  • サステナビリティ情報について第三者保証報告書を取得している東証プライム上場企業86社を分母とし、各社の保証報告書に掲載された705項目を1社ずつ読み取って集計しました(2026年9月時点)。
  • 「法定3項目」は、項目名に次の条件を満たすものとしました。女性管理職比率=管理職・幹部等を指す語、女性または男女を指す語、比率を指す語のすべてを含むもの(人数のみの項目は除く)/男性育児休業取得率=育児休業・育児休職等を指す語、男性または男女を指す語、比率を指す語のすべてを含むもの/男女の賃金の差異=賃金・報酬等を指す語と、差異・格差または男女の対比を示す語を含むもの。
  • 「社会・人的資本の項目」は、報告書上のカテゴリがダイバーシティ・労働安全衛生・人材育成・賃金・育児等に該当するもの、または法定3項目に該当するものとしています。
  • 4層の合計は86社(16+42+25+3)です。
  • 保証の対象範囲は各社が保証機関と協議のうえ決定するものであり、対象外であることが開示の質を示すものではありません。

中山 航(なかやま わたる)

Allyship Japan LLC 代表社員/米国公認会計士(ワシントン州)

大手監査法人で8年間、金融機関の金融商品取引法監査・内部統制監査に従事。 事業会社で人的資本の法定開示について、内部統制の構築から開示実務までを担当。 厚生労働省 共育プロジェクトの人的資本経営セミナーに登壇。

外部からのチェックを受けることが初めての人事・サステナビリティ推進担当の方に向けた 入門シリーズ(全20回)の第14回です。 目次を見る →

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開示している人的資本指標について、その作り方が説明できる状態にあるかを、 財務報告の内部統制と同じ枠組みで評価し、そこから先の工程表をお出しします。

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