第15回 第4章 他社はどこまでやっているか

保証の対象になっているのは、どんな項目か

他社は、人的資本のどの指標を保証の対象に選んでいるのか。

前回は「どこまで入れているか」を層で見ました。今回は「何を入れているか」です。

自社で対象を選ぶとき、他社が何を選んでいるかは判断材料になります。

保証対象項目ランキング
(Allyship Japan 作成。図は項目名ベースのランキング。本文はカテゴリ別の集計です)

保証の対象になっていた591項目の内訳

86社の保証報告書に掲載されていた705項目のうち、実際に保証の対象とされていたのは591項目でした。そのカテゴリ別の内訳は次のとおりです。

カテゴリ項目数
ダイバーシティ114
労働安全衛生100
安全衛生68
賃金・処遇62
ダイバーシティ・インクルージョン32
従業員構成25
ワークライフバランス24
環境23
育児・介護18
賃金・報酬17

(上位10カテゴリ。合計591項目)


上位3つで、半分を占めます

カテゴリの名称は報告書によって揺れがあるため、意味が近いものをまとめると、傾向がはっきりします。

  • ダイバーシティ関連(ダイバーシティ+ダイバーシティ・インクルージョン)= 146項目
  • 安全衛生関連(労働安全衛生+安全衛生)= 168項目
  • 賃金関連(賃金・処遇+賃金・報酬)= 79項目

安全衛生とダイバーシティで、保証対象の半分以上を占めます。


なぜ安全衛生が多いのか

安全衛生が最も多いのは、人的資本の中で最も早くから数えられてきた領域だからです。

労働災害の件数、度数率、強度率といった指標は、算定方法が法令や業界基準で定まっています。定義を社内で決める必要が小さい、という点が保証との相性を良くしています。

第9回で見たとおり、人的資本の指標で難しいのは定義です。安全衛生は、その難しさが小さい領域です。


ダイバーシティが多いのは、開示の要請があるから

ダイバーシティ関連が多いのは、法定開示の3項目がここに含まれるためです。女性管理職比率、男性育児休業取得率、男女の賃金の差異は、いずれもこのカテゴリに分類されます。

外に出している以上、確かめてもらう対象にもなりやすいという流れです。


選び方の順番

以上を踏まえると、対象を選ぶときの実務的な順番が見えてきます。

優先何を選ぶか理由
1法定開示の3項目すでに外に出しており、定義を決める必要がある
2算定方法が外部で定まっているもの(労働災害の度数率など)定義を社内で決める負担が小さい
3経営指標として使っているもの経営会議に出している以上、説明責任が生じている
4それ以外

1と2を先にやると、進みが早くなります。 1は避けて通れず、2は定義の負担が小さいためです。

逆に、エンゲージメントスコアのように算定方法が社内固有で、外部に確立した基準がない指標は、後ろに回すのが現実的です。


「全部入れる」を目標にしない

第8回で見たとおり、保証対象は1社あたり平均7.0項目です。多い会社でも22項目です。

人事が扱うデータはこれよりはるかに多いはずですが、そのすべてを保証の対象にしている会社はありません。

対象を絞ることは正しい設計です。絞ったうえで、選んだものについては説明できる状態にする。これが実務の姿です。


まとめ

  • 86社の保証報告書に掲載された705項目のうち、保証の対象とされていたのは591項目でした。
  • カテゴリ別ではダイバーシティ114・労働安全衛生100・安全衛生68・賃金処遇62の順で、安全衛生関連とダイバーシティ関連で半分以上を占めます。
  • 安全衛生が多いのは、算定方法が外部で定まっていて、定義を社内で決める負担が小さいためです。
  • ダイバーシティが多いのは、法定開示の3項目がここに含まれるためです。
  • 選ぶ順番は、①法定3項目 → ②算定方法が外部で定まっているもの → ③経営指標
  • 全部入れることを目標にしません。 絞ったうえで、選んだものを説明できる状態にします。

出所・注記

  • サステナビリティ情報について第三者保証報告書を取得している東証プライム上場企業86社を対象に、各社の保証報告書に掲載された705項目を1項目ずつ読み取り、保証の対象とされていた591項目についてカテゴリを集計しました(2026年9月時点)。
  • カテゴリは各社の報告書上の区分を読み取ったもので、名称は報告書によって揺れがあります(「労働安全衛生」と「安全衛生」、「賃金・処遇」と「賃金・報酬」など)。本文で「関連」としてまとめた数値は、意味が近いカテゴリを合算したものです。
  • 上位10カテゴリのみを掲載しており、表の合計は591項目と一致しません。
  • 挿図は WP1「人的資本の第三者保証 実態調査」の項目名ベースのランキングであり、本文のカテゴリ別集計とは切り口が異なります。
  • 1社あたりの平均項目数7.0は、591項目を86社で除したものです。

中山 航(なかやま わたる)

Allyship Japan LLC 代表社員/米国公認会計士(ワシントン州)

大手監査法人で8年間、金融機関の金融商品取引法監査・内部統制監査に従事。 事業会社で人的資本の法定開示について、内部統制の構築から開示実務までを担当。 厚生労働省 共育プロジェクトの人的資本経営セミナーに登壇。

外部からのチェックを受けることが初めての人事・サステナビリティ推進担当の方に向けた 入門シリーズ(全20回)の第15回です。 目次を見る →

自社の現在地を確かめる

開示している人的資本指標について、その作り方が説明できる状態にあるかを、 財務報告の内部統制と同じ枠組みで評価し、そこから先の工程表をお出しします。

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