第16回 第4章 他社はどこまでやっているか

3社に1社は、単体のみで保証を受けています

保証の対象になっている数字は、グループ全体のものなのか。

第10回で、集計範囲の決め方を見ました。今回は、実際に保証を受けている会社がどの範囲で受けているかを数字で確かめます。

ここには、準備を始める会社にとって実務的な意味があります。

対象データのスコープ
(Allyship Japan 作成)

法定3項目の保証対象112項目の内訳

86社の保証報告書のうち、法定3項目(女性管理職比率・男性育児休業取得率・男女の賃金の差異)で保証の対象となっていた112項目について、集計範囲を読み取りました。

集計範囲項目数
グループ・連結7365.2%
単体のみ3733.0%
国内のみ21.8%

3分の2はグループ・連結です。 ただし、3社に1社の割合で単体のみという状態があります。


単体のみ、が意味すること

単体のみで保証を受けているということは、保証されているのは親会社の数字だけということです。

ここで論点になるのは、開示している範囲と保証している範囲がずれていないかです。

  • 統合報告書ではグループ全体の女性管理職比率を出している
  • 有価証券報告書では提出会社と一部の連結子会社の数字を出している
  • 保証を受けているのは、提出会社単体のぶんだけ

この状態は珍しくありません。そして、それ自体が誤りというわけでもありません。第11回で見たとおり、説明できる差は注記で足ります

ただ、読む側から見ると「どの数字が保証されているのか」が分かりにくくなります。


なぜ単体から始めるのか

実務としては、合理的な理由があります。

① 子会社のデータが揃わない。第10回で見たとおり、グループに広げると定義を各社に通す必要が出ます。等級制度が違う会社に同じ条件を適用してもらうのは、一度では終わりません。

② 期ずれがある。決算期や給与の締め日が違う会社があると、「期末時点」を揃えるだけで工数がかかります。

③ まず通すことを優先する。初年度は範囲を絞って保証を通し、翌年以降に広げる。これは現実的な進め方です。

単体から始めること自体は、問題のある選択ではありません。


ただし、広げる段階で同じ問題が再発します

注意したいのはここです。

単体で保証を通した会社が翌年グループに広げようとすると、第9回・第10回で見た問題がそのまま出てきます

  • 子会社ごとに「管理職」の範囲が違う
  • 期末時点の定義が揃わない
  • 依頼と回収の記録が残っていない

単体で通ったことは、グループで通ることを意味しません。 単体の準備で作った定義書は、そのままではグループに使えないことが多くあります。

したがって、最初から「いずれグループに広げる」前提で定義を作っておくほうが、手戻りが少なくなります。単体用の定義書と、グループ用の定義書を別々に作ることになると、二重管理が始まります。


準備を始める会社への示唆

これから着手する場合、範囲について最初に決めるのは次の2つです。

  1. 初年度にどこまでを対象にするか(単体か、主要子会社を含むか)
  2. 最終的にどこまで広げるか(財務諸表の連結範囲と揃えるか)

2を決めてから1を決めます。 逆にすると、初年度の設計が最終形と合わなくなります。


まとめ

  • 法定3項目で保証の対象になっていた112項目のうち、グループ・連結が73項目(65.2%)、単体のみが37項目(33.0%)でした。
  • 3社に1社の割合で単体のみです。開示している範囲と保証している範囲がずれている場合があります。
  • 単体から始めること自体は、データが揃わない・期ずれがある・まず通すことを優先するという理由から、現実的な選択です。
  • ただし、単体で通ったことはグループで通ることを意味しません。 広げる段階で定義と期ずれの問題が再発します。
  • 最初に決めるのは、最終的にどこまで広げるか。そのうえで初年度の範囲を決めます。

出所・注記

  • サステナビリティ情報について第三者保証報告書を取得している東証プライム上場企業86社を対象に、法定3項目に該当し、かつ保証の対象とされていた112項目について、報告書に記載された集計範囲を1項目ずつ読み取って集計しました(2026年9月時点)。
  • 報告書上の表記は「単体」「連結」「グループ全体」「部分グループ」「子会社合計」など多様なため、グループ・連結/単体のみ/国内のみの3つに束ねています。束ねる前の表記をそのまま数えると最頻値は「単体」(34項目)になりますが、これはグループ・連結を指す表記が複数に分かれているためです。合計するとグループ・連結が多数派になります。
  • 「法定3項目」の判定条件は第14回の注記と同じです。
  • 集計範囲の選択は各社が保証機関と協議のうえ決定するものであり、範囲が狭いことが開示の質を示すものではありません。

中山 航(なかやま わたる)

Allyship Japan LLC 代表社員/米国公認会計士(ワシントン州)

大手監査法人で8年間、金融機関の金融商品取引法監査・内部統制監査に従事。 事業会社で人的資本の法定開示について、内部統制の構築から開示実務までを担当。 厚生労働省 共育プロジェクトの人的資本経営セミナーに登壇。

外部からのチェックを受けることが初めての人事・サステナビリティ推進担当の方に向けた 入門シリーズ(全20回)の第16回です。 目次を見る →

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開示している人的資本指標について、その作り方が説明できる状態にあるかを、 財務報告の内部統制と同じ枠組みで評価し、そこから先の工程表をお出しします。

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