第6回 第2章 保証を受ける側で、実際に何が起きるか

契約の前に確認される5つのこと

保証を引き受けてもらえるかどうかは、どこで決まるのか。

前回、保証を受けると決まった日から現場で何が起きるかを見ました。今回はもう少し手前、保証機関と契約する前の話です。

第2回で、保証は「保証対象の適切性の確認」と「受嘱・計画」から始まると書きました。ここで何を見られるのかを具体的に押さえておくと、準備の優先順位が決まります。

契約前に確認される5つの前提条件
(Allyship Japan 作成)

保証業務が成り立つための「前提条件」

サステナビリティ保証の国際基準である ISSA5000(サステナビリティ保証業務に関する国際基準)は、保証業務が成り立つための前提条件を定めています。これらが備わっていない場合、保証機関は保証業務契約を受嘱することができません

「まだ準備ができていないので、今回は簡単に見てもらう」という選択肢は、制度上ありません。


5つの前提条件

a 情報を特定するプロセスと、経営者等の合理的な基礎

報告すべき情報を特定するプロセスが社内に確立されていること。そして、情報の作成を可能にする統制を含むプロセスがあること。

「誰が、どの情報を、どういう理由で開示対象として選んだのか」が説明できる状態を指します。

b 対象とするサステナビリティ事項が適切であること

対象が識別でき、規準に照らして一貫して測定または評価できること。

年によって数え方が変わる指標は、この条件を満たしません。

c 算定報告基準(規準)の適合性と利用可能性

算定のルールが、目的適合性・完全性・信頼性・中立性・理解可能性を備えていること。そして、そのルールを想定利用者が利用できること。

ここでいう「規準」とは、その数字をどう計算するかを定めたルールのことです。社内にあるだけでなく、読む人が参照できる状態であることが求められます。

d 結論を裏付ける証拠が入手可能と想定されること

根拠資料が保管され、文書や記録に基づいた算定と報告が行われていること。

担当者の頭の中にしかない手順は、証拠になりません。

e 保証業務が合理的な目的を有していること

対象を一部に限る場合、その理由が適切であること。

都合のよい指標だけを保証の対象にする、という選び方は想定されていません。


共通しているのは「企業の側に何があるか」

5つを並べると、すべてが企業の側の状態を問うていることが分かります。保証機関の側に何があるか、ではありません。

とくに d(証拠が入手可能と想定されること) は、準備の実感に直結します。証拠が入手できないほど記録や統制が整っていない場合、受嘱の可否そのものが慎重に判断されます。

つまり、「保証を受けながら整えていく」という順番は取れません。 整えてから受ける、という順番になります。


「契約前に分かってしまう」ことの意味

実務としていちばん大きいのは、準備ができていないことが、契約の前の段階で明らかになるという点です。

社内で「今期から保証を受ける」と決めて、保証機関に相談したところで受嘱に至らなかった。そうなると、方針を決めた側にも説明が必要になります。

だからこそ、保証機関に相談する前に、自社で現在地を確かめておくことに意味があります。何がどこまで整っているかが分かっていれば、いつから受けられるかを自分で判断できます。


まとめ

  • ISSA5000 は、保証業務が成り立つための5つの前提条件を定めています。備わっていない場合、保証機関は契約を受嘱できません
  • 5つはいずれも、企業の側に何があるかを問うています。
  • とくに「証拠が入手可能と想定されること」は、記録と統制が整っているかを直接問います。
  • 「保証を受けながら整えていく」という順番は取れません。
  • 準備ができていないことは、契約の前に分かります。

出所・注記

  • 保証業務の前提条件は、ISSA5000(サステナビリティ保証業務に関する国際基準)第76項〜第80項に基づく整理です。
  • 条文の趣旨を実務の言葉に置き換えて記載しています。適用にあたっては原文をご確認ください。
  • 「規準」は、保証の対象となる情報を作成・測定するために用いられるルールを指す用語です。

中山 航(なかやま わたる)

Allyship Japan LLC 代表社員/米国公認会計士(ワシントン州)

大手監査法人で8年間、金融機関の金融商品取引法監査・内部統制監査に従事。 事業会社で人的資本の法定開示について、内部統制の構築から開示実務までを担当。 厚生労働省 共育プロジェクトの人的資本経営セミナーに登壇。

外部からのチェックを受けることが初めての人事・サステナビリティ推進担当の方に向けた 入門シリーズ(全20回)の第6回です。 目次を見る →

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開示している人的資本指標について、その作り方が説明できる状態にあるかを、 財務報告の内部統制と同じ枠組みで評価し、そこから先の工程表をお出しします。

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