第17回 第5章 何を、どこまで整えれば終わりか

内部統制とは何か ― 人事データに当てた4つの層

「内部統制を作る」と言われたとき、人事データでは何を作るのか。

最終章に入ります。ここまでで、保証で何を見られるか、社内で何が起きるか、他社がどこまでやっているかを見てきました。

残るのは「では、何をどこまで整えれば終わりか」です。ここから4回で、その答えを扱います。

内部統制の種類
(Allyship Japan 作成)

新しい物差しをこしらえる必要はありません

人的資本データの整備をどこまでやればよいか。この問いに、新しい基準を作って答える必要はありません。

財務諸表監査および内部統制監査では、何をどこまで整えれば通るのかが、すでに実務として確立しています。 業務記述書があり、フローチャートがあり、リスクとコントロールの対応表がある。その水準に達しているかを自分たちで確かめてから監査を受ける、という流れです。

その枠組みを、そのまま人事データに当てます。


内部統制とは、「誰がやっても同じ数字になる仕組み」

内部統制という言葉は硬いですが、中身は単純です。

誰もが同じ手順で、間違いなく、正しいデータを作れる仕組み。 これが内部統制です。

担当者が代わっても同じ数字が出る。去年と今年で同じ条件で数えている。その状態を作る仕組みを指します。

内部統制には、一般に次の目的があるとされています。

  1. 業務の有効性および効率性
  2. 報告の信頼性
  3. 事業活動に関わる法令等の遵守
  4. (加えて)資産の保全

人的資本データが関わるのは2つ目「報告の信頼性」です。第4回で見たとおり、この責任を負うのは企業です。


4つの層に分かれます

内部統制は、次の4つの層に分かれます。

何を扱うか人事データでは
Ⅰ 全社的な内部統制会社全体の方針と体制開示・報告の方針、責任と権限、決定と承認のライン
Ⅱ 報告プロセスに係る内部統制報告する情報の作り方指標の定義、集計範囲、対象期間の確定と文書化
Ⅲ 業務プロセスに係る内部統制日々の業務の中の統制入力・検証・承認・記録・変更管理の5プロセス
Ⅳ IT統制(EUC を含む)システムとファイルの管理システムからの抽出、表計算ファイルの管理、アクセス権限

土台はⅠです

順番が大事です。Ⅰ(全社的な内部統制)が整っていないと、上の層をいくら作り込んでも運用が続きません。

Ⅰとは、具体的にはこういうことです。

  • 誰が決めるのか:指標の定義を決める責任者が決まっている
  • 誰が承認するのか:開示する数値を承認するラインが決まっている
  • どの部門が主管か:人事・経理・IRの役割分担が決まっている

これが決まっていないと、Ⅱで定義書を作っても承認者がおらず、Ⅲで手順を定めても守らせる権限がありません。

第5回で「体制は社内で決めるほかない」と書いたのは、Ⅰのことです。 ここだけは外部が代わりに決められません。


Ⅲの5プロセスと4視点

Ⅲ(業務プロセス)は、第8回で見た5つのプロセスに分かれます。

入力 → 検証 → 承認 → 記録 → 変更管理

そして、それぞれのプロセスで次の4つの視点が満たされているかを見ます。

視点問い
網羅性数えるべきものが漏れていないか
正確性数え方が正しいか
実在性実際に存在しないものを数えていないか
期間帰属その期間に属するものを数えているか

たとえば女性管理職比率なら、網羅性は「対象の子会社をすべて含めたか」、実在性は「退職者を分母に残していないか」、期間帰属は「期末時点で揃えたか」にあたります。


対象は絞ります

すべての人事データに内部統制を作るわけではありません。第15回で見たとおり、保証の対象は1社あたり平均7.0項目です。

優先順位は、重要性(外部に出しているか、経営指標か)と複雑性(誤りが起きやすいか)の2つで決めます。部門をまたいで集計している指標、手作業が多い指標から着手します。


まとめ

  • 人事データのために新しい物差しをこしらえる必要はありません。財務報告で確立している枠組みをそのまま当てます。
  • 内部統制とは、誰もが同じ手順で、間違いなく、正しいデータを作れる仕組みです。人的資本データが関わるのは「報告の信頼性」です。
  • 層は4つ。Ⅰ全社的/Ⅱ報告プロセス/Ⅲ業務プロセス/Ⅳ IT統制
  • 土台はⅠです。 誰が決め、誰が承認し、どの部門が主管かが決まっていないと、上の層は運用が続きません。
  • Ⅲは入力・検証・承認・記録・変更管理の5プロセスと、網羅性・正確性・実在性・期間帰属の4視点で見ます。
  • 対象は重要性と複雑性で絞ります。

出所・注記

  • 内部統制の目的の区分および4つの層の整理は、企業会計審議会「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準」で用いられている枠組みに基づき、人的資本データに当てはめたものです。
  • 5つのプロセス(入力・検証・承認・記録・変更管理)および4つの視点(網羅性・正確性・実在性・期間帰属)も同様に、財務報告の内部統制で用いられている整理によります。
  • EUC(エンドユーザー・コンピューティング)は、情報システム部門ではなく利用部門が自ら作成・管理する表計算ファイル等を指します。
  • 1社あたりの保証対象項目数7.0は、86社・591項目から算出したものです(第15回参照)。

中山 航(なかやま わたる)

Allyship Japan LLC 代表社員/米国公認会計士(ワシントン州)

大手監査法人で8年間、金融機関の金融商品取引法監査・内部統制監査に従事。 事業会社で人的資本の法定開示について、内部統制の構築から開示実務までを担当。 厚生労働省 共育プロジェクトの人的資本経営セミナーに登壇。

外部からのチェックを受けることが初めての人事・サステナビリティ推進担当の方に向けた 入門シリーズ(全20回)の第17回です。 目次を見る →

自社の現在地を確かめる

開示している人的資本指標について、その作り方が説明できる状態にあるかを、 財務報告の内部統制と同じ枠組みで評価し、そこから先の工程表をお出しします。

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